ひとつひとつの関係を根気よく築きながら前進すること | 下地 宏和

ひとつひとつの関係を根気よく築きながら前進すること|下地 宏和

敬愛する師匠の一言が、世界チャンピオンまで自分を育てた

神戸の入口、閑静な住宅街、おしゃれなこの町芦屋で、独立して自分の店を持って丸6年、その間に2店舗目を設けて2年が過ぎます。自然にこだわり、できるだけ天然の素材を使い髪本来の自然な美しさを提案し、実践する店をみんなで創っています。美容院の中ではまだまだ新しい取り組みで、このことに気づいているお店そのものがまだ少なく、物理的にも気づいてはいてもコストの高さやさまざまな理由でできないでいるのが現状です。最近ようやく僕たちがやってきたことが認知されるようになったのかな?という気がしています。「気持ちの良いお店ですね」と初めて訪れたお客さんから言われることも多くなりました、うれしい事にリピーターもたくさん増えました。

理美容師の世界は厳しい世界です。国家資格をとったからといってそのまま技術者としてサロンにたてるわけではありません。離脱者も多いし、人間関係もいまだ縦社会が根強く残り、通常の世界では気を使わなくても良いところで神経をすり減らさなければなりません。よく言われていることですが“その他大勢の中から飛び出すこと”がまず求められます。それぞれの技術者にそれぞれの突出の仕方があります。わたしは単純にカット技術の世界チャンピオンになろうと思いました。カット技術の世界チャンピオンは、カット技術を競う競技大会です。全国で競い、全国大会で優勝した者だけが世界大会に日本代表として出場できます。理美容の業界がやっているオリンピックのようなものです。

何故やり続けられたのか?

何故出場を決めたのか?というと、そのきっかけになったのは師匠から言われた一言でした。実はわたしは23という若さで結婚しています。結婚の報告をした時にいただいたのが「キミも終わりだね」という一言。これが後の人生に大きく影響を及ぼしています。

若い頃からコンテストに出場することを励みにしていたわたしに、師匠は目標であると同時に貴重なアドバイスをいただける大切な人。何かと目をかけてくださって「お前は日本一になって世界に行くんや」と励まし続けてくださいました。 当然「おめでとう」と言ってくれると期待した結婚報告だっただけに、返ってきた言葉は、事のほか厳しく思われました。今思えばわたしが奮起することを知ってそういわれたのだとも思うし、きっと結婚すると仕事に集中してたのが、家庭にもエネルギーが注がれてしまう…と心配してくださった心から出た言葉だったのですが、しかし当時のわたしは「なにくそ」と思うばかりです。

やがて、それは良い爪あととして妻とふたりの心に残り「結婚してよかったね」「結婚をして力が半分になるのではなくて、結婚したからこそパワーが倍になりました」と、という言葉に変えてみせようと、心に決めました。

それから数年後、わたしは世界チャンピオンとして結果を出しました。物事には、時として何かを口にしてその目標に向かって努力をして歩みつづけ、結果を出した時にはじめて、理解できることがあります。この師匠が言ったことが今は理解できるし、本当に感謝をしています。もし、あの時にその言葉をもらってなかったら、普通に暮らして平凡な暮らしに満足していたかもしれません。妻も「あの言葉がお尻を叩いてくれました。結婚をしたことが決してマイナスにはならないというところを見せることができたたから」と懐かしそうに当時を振り返ります。今でも変わらず師匠はわたしたち夫婦にとって、お手本であり目標であり、経営者として常にたよらせていただいている存在です。本当に本人の事を思って伝える言葉は、身近な人からの厳しい言葉だったりする。厳しい言葉を言ってくれる人こそ自分を成長させてくれる人です。そんな師匠に出会えた事が私の一番の宝物です。

自然にこだわりたい、あくまでも

ファッションの最先端を知る神戸の女性は同時に意識も高くおしゃれなものに敏感です。その場所にある理美容院でわたしが取り組んでいるのは、天然素材を中心に創られていて有害なものが出来るだけはいっていないシャンプーや毛染め液、パーマ液を使うこと。髪や人だけでなく地球環境にも優しい素材を使い、上質なホスピタリティを提供することです。 店舗で天然素材のものを使用することは環境の意識の強いアメリカやヨーロッパ諸国ではすでにマーケットの一角を形成しています。いち早くそこに着目し、自分なりに諸外国の事情を学び、自ら実践して今あるラインナップを揃えました。決して売上を上げるという意味で使うのではなく、まずナチュラルで人の体に優しいものを使うことによって、みんなが優しくなる、まずそんな理想郷にも似た環境を作りたいと思ったのです。本当に良いもの、体が喜ぶものを使い、お客さんに喜んでもらう。自然のものを使って、きもちの良さが絆となって、人間関係が広がってゆく、それがわたしの経営の基本で、それができれば最高の喜びだと思います。

わたしの取り組みにお客さんの反応は、「お店全体が気持ちいいんです」「こんなシャンプーを使っている美容院を探してました」「一歩お店に足を踏み入れたら、二度三度来たくなるような」「もう他の理美容院には行けなくなりました」など、少しづつですが確実に受け入れられているように感じます。 また従来の美容院の常識からすると、わたしの取り組みはコストの面からも割高で、商品そのものがまず入手しにくく、決してスムーズな経営ができるという代物ではありません。しかし最初は理解してもらえなかった同業者にも、最近では理解してくださる方が増え始めていて、うれしいというか仲間の輪が拡がって少しばかり心強くなりました。

自分たちで作ったということ、新しいことをやるということ

わたしはこれからももっともっとやりたいことがあります。まず美容業界そのものを変えてゆきたいと思っています。相変わらず旧態然としていては、新しく優秀な人材が育ちません。それは業界そのものの損失だと思うんです。少なくとも今までの徒弟制度のような体質から、ひとつ抜けだして、休みや営業時間、お給料などやその他の労働条件の改善して、業界自体をレベルアップしてゆきたいと思っています。 かつてわたしの師匠がチャンスを与えてくれたように、わたしもスタッフにチャンスと機会をたくさん与え続けたいですね。そして新しいことに取り組んで確立することができたら「これは自分たちでやった仕事なんです」ということを声高に訴えてゆきたいと思っています。

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下地 宏和

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